目 次
巻頭言
ギニアで山師
となった私
齊藤清
北朝鮮の瀬戸際
外交に封じ手を
斎藤志郎
父親を偲ぶパラオ
鎮魂の旅
伴武澄
グローバル時代に
おける子供の教育
田中豊
日本人移民子弟
への日本語教育
潮厚宏
日本語教育と
ボランティア
藤田千尋
企業の社会貢献
第2回
伴武澄
航空技術の草分け
田中館愛橘
若松立行
賀川豊彦の世界2
編集後記
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北朝鮮の瀬戸際外交に封じ手を
斎藤志郎(元アジア大学教授)
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は、昨年末から新年にかけて、核開発関連施設の封印撤去、国際原子力機関(IAEA)の査察官追放、そして核不拡散条約(NPT)脱退と矢継ぎ早に危険な瀬戸際外交を展開した、このため、北東アジアにおける緊張は一気に高まり、日本、アメリカ、そして韓国も北朝鮮の核開発阻止に懸命の外交努力を重ねている。
北朝鮮の核開発と瀬戸際外交の狙いは何なのか。これに対する日米韓の外交的連携、中ロを含む国際社会の対応はどうなるか。本稿では、北朝鮮核問題の本質を見極め、平壌の瀬戸際外交を封じ込める平和戦略のあり方を探ってみたい。
繰り返された瀬戸際外交
北朝鮮は、一九九三年から九四年にかけても、核開発の脅威をちらつかせた瀬戸際外交を展開したことがある。この時は、アメリカのペリー国防長官(当時)が北朝鮮の核施設爆撃の可能性を示唆するところまで危機がエスカレートしたが、カーター元大統領の平壌訪問などを経て、一九九四年一〇月には米朝「枠組合意」が成立した、この合意により、北朝鮮は五メガdの原子炉の稼働凍結、プルトニウム再処理工場の操業中止、五〇メガdと二〇〇メガdの原子炉建設の停止を約束した。
これに対し、アメリカと同盟国は、北朝鮮での軽水炉二基の建設を支援し、アメリカは年間五〇万dの重油の供給を約束した。
米朝合意は、アメリカと北朝鮮の両国が政治的、経済的に完全な関係正常化を実現することとし、双方の首都に連絡事務所を開設することとしている、これはまだ実現するにいたっていないが、西側と北朝鮮の外交関係は正常化した。こうしたことから北朝鮮は一九九三−九四年の瀬戸際外交がアメリカなどの関心を引く手段として功を奏したものと考えている、今回の瀬戸際外交にも多分こうした狙いがあるとみられる。
しかし、北朝鮮が米朝合意に反し核開発を継続し、IAEAの査察拒否、NPT脱退に至った今、アメリカは北朝鮮との対話はともかく外交交渉に応ずる意思のないことは明らかである。パウエル国務長官が明らかにしたところによると、北朝鮮はすでに二、三発の核弾頭を保有しており、さらに二〇〇三年には半ダースの核弾頭を、二〇〇五年には一ダースの核弾頭を保有するだろう、また、短、中距離の弾道ミサイルを保有し、これに取り付ける核弾頭も十分に小型化されているという。
アメリカが一九九四年の米朝合意によって危機を回避したのは、北朝鮮の核施設に対する攻撃は放射能被害が韓国にも及ぶ恐れがあったためで、さらに北からの軍事的反撃が非武装地帯の一〇〇`以内に展開する米軍にも被害を及ぼし、非武装地帯からわずか40`のソウルにも甚大な被害が及ぶためであった。こうした状況はいまでも変わっておらず、北朝鮮の瀬戸際外交に対抗してアメリカが軍事的対応をする可能性ははじめから排除されている。
米韓の不協和音をどう調整するか
しかし、一九九三−九四年危機の際のクリントン民主党政権とは異なり、現在のブッシュ共和党政権は北朝鮮を「悪の枢軸」とみなして、強硬な姿勢をとっており、国交正常化交渉でも安易な妥協は一切しない方針である、この点、金正日総書記が瀬戸際外交によって、アメリカから有利な条件を引き出せると思ったら間違いである。
ところが、韓国に新たに登場した盧武鉉大統領はブッシュ政権の強行路線に悲観的で、北朝鮮政策をめぐる米韓不協和音が金正日総書記の揺さぶりや脅しに隙を見せる結果となりかねない。
盧新大統領は、金大中前大統領の「太陽政策」を継承し、「アメリカが対話や支援を中断する強硬措置をとるなら、軍事衝突を想定せざるを得なくなる」としてアメリカに批判的である。北朝鮮はアメリカに対し、昨年一二月から停止した「重油の供給を再開し、不可侵条約の締結に応じるなら核計画を廃棄する」と要求、アメリカは「脅しに屈して交渉に応じることはない」と突っぱね、日米韓の連携や中国、ロシアとの協力を通じて核廃絶に向けた外圧を強めようとした。
これに対し、金大中前大統領は「共産国家への孤立化政策は成功したことがない」として太陽政策の有効性を強調した。
こうした米韓の不協和音を見透かすように、北朝鮮は「現時点での朝鮮半島の対決の構図は朝鮮民族対アメリカ」であり、「全民族が団結して(アメリカに)反撃すべきである」と呼び掛けている。
アメリカ国内では、米兵による学生殺害事件をめぐる韓国内の反米感情の高まりへの反発が広がり、一部には在韓米軍の撤退論さえ出ている。このため、米韓間関係はかつてない試練に立たされているが、ここは韓国側がアメリカに歩み寄るべきで、アメリカはイラクに対するのとは異なり、北朝鮮とは武力対決するのを好まず、あくまで平和的、外交的快活を求めている。一九九四年の米朝合意に背いて核開発したのは北朝鮮である。約束を守ってもらうための外交的圧力が尻抜けになったのでは、核問題の平和解決の道は遠のくばかりである。
北朝鮮の核開発阻止に向けての日米韓三国の連携は三国それぞれの政策の違いを調整して北への圧力をより強固なものにする必要がある、日米韓三国は一月七日、ワシントンで政策調整会合を開き、共同声明を発表した、共同声明は、北朝鮮問題の平和的かつ外交的解決を目指す意図を改めて表明、北朝鮮による核開発凍結解除の動きに深刻な懸念を表明、核拡散防止条約に基づく合意を順守するよう求めた国際原子力機関の決議を強く支持した。またアメリカは北朝鮮を侵略する意図はないと表明、北朝鮮の国際社会への義務を果たす方法について話し合いの用意があると表明したが、義務の履行への見返りは与えないと強調した。
しかし、これらの点は三国がこれまで表明してきた最大公約数の主張にすぎない、日米韓連携の政策調整は今後の課題として残されたままである。
長期の封じ込め政策は不可能
北朝鮮の瀬戸際外交に対するアメリカのこれまでの反応は、一九九四年の米朝合意に背いた核開発への対抗手段として、年五〇万dの重油の供給停止であった。その延長上でアメリカ政府は、北朝鮮を封じ込める政策を模索しているようである。その中には経済的な圧力、北朝鮮の武器輸出を阻止する海上封鎖などが含まれ、隣国である韓国、中国、ロシア、日本にもこれらの措置に協力を求める。
しかし、こうした封じ込め政策には二つの問題がある、一つは、金大中前大統領がすでに反対の意を表明しているように、北朝鮮孤立化政策には、韓国はじめ中国、ロシア、日本も賛成しないだろう。北朝鮮に武器を供給しているロシアは、北朝鮮を孤立化しようとする試みは逆効果であり、うまく機能しないとみている。拉致問題を抱える日本も、強硬措置は拉致問題解決で北朝鮮を説得しようとする外交努力を阻害する恐れがあるとみている。
もう一つは、封じ込め政策の目的が必ずしもはっきりしないことである。北朝鮮と対話も貿易もしないで、核開発阻止ができるかどうかである。アメリカは北朝鮮の核開発計画の放棄を望んでいるが、一九九四年合意を断念して、さらに北との関係を凍結しておくとすれば、北朝鮮のプルトニウム生産を助長する結果となりかねない。
以上二つの理由から、北朝鮮封じ込め政策は、長期的に機能しないということになる。アメリカはクリントン政権の時から、封じ込め政策は機能しないとみていた、一つないし二つの核爆弾を北朝鮮がもっていれば、報復力を備えたことになり、それが半ダースともなれば、それを軍事的に利用するだけでなく、プルトニウムを輸出することもできるようになる。
それにしても、北朝鮮が実際に軍事侵略を計画しているとの見方は少ない、むしろ、北朝鮮が核開発を推進しようとする主な理由は、アメリカとの関係がうまく進まないことからくる欲求不満によるものとみられる。軽水炉二基の建設は五年遅れており、北朝鮮はこれをアメリカのせいだとし、アメリカは北の妨害によるものだとしている。
軍事解決より外交決着を
北朝鮮の瀬戸際外交をめぐる関係国の思惑には、少なからぬ相違があり、早期決着の見通しはたたない状況である。金正日総書記の瀬戸際外交はさらにエスカレートする可能性がある、しかし、問題解決には軍事対決より外交的決着しかなく、ブッシュ大統領もこのことははっきり認めている。
日本の小泉首相は一月一〇日からモスクワとハバロフスクを訪問し、プーチン大統領やプリコフスキー・ハバロフスク極東連邦管区大統領全権代表らと会談し、北朝鮮問題について協議した。プーチン大統領との首脳会談では、北東アジアの安全保障を協議するため、韓国、北朝鮮に加え、日米中ロを含む六者安全保障の実現の可能性などが検討された。北朝鮮の核拡散防止条約の脱退をめぐっては、「速やかに脱退宣言を撤回すること、同時に平和的解決が北朝鮮にとって最も利益になるということを働きかけなければならない−などの点で両首脳の意見は一致した。
プリコフスキー代表との会談では、プ代表から「北朝鮮のエネルギー問題は破局的状況にある、エネルギー問題が解決すれば核問題も解決するのではないか」との認識が示された。小泉首相は「核拡散防止条約脱退宣言を撤回するなど、まず北朝鮮が対応すべきだ」と指摘、「アメリカは交渉のドアを開けている。アメリカも基本的には平和的解決を求めており、北朝鮮に粘り強く働き掛けていくことが重要だ」と強調した。
日本や韓国の働き掛けにより、アメリカのブッシュ政権も最終的には外交的決着以外にないと考えるようになっている。先の日米韓三国共同声明では、国際社会への義務を順守することについて北朝鮮と話し合う用意があるとしており、北朝鮮はアメリカとの会談で不可侵条約を締結した後においてのみ、核問題について保証を行うと主張している。
北朝鮮の韓成烈国連次席大使は一月一一日、米ニューメキシコ州サンタフェでリチャードソン同州知事と会談し、北朝鮮は核開発の意図はなく、核計画の検証についてアメリカ政府と話し合う用意があると伝えた。リチャードソン知事は北朝鮮側がアメリカとの対話を通じて核問題の解決を図る姿勢を示した点を評価した。
一方、ロシアのイワノフ外相は米中韓仏の四国に対し、北朝鮮問題の包括的解決を示し、核開発計画放棄の見返りに北朝鮮の安全保障と経済・人道支援の再開を約束するよう提案している。この解決案では、北朝鮮の核拡散防止条約の順守、核開発凍結の道筋を定めた「一九九四年米朝枠組合意」など他の国際合意に基づく義務の履行を要請している。また、朝鮮半島の非核化を実現する見返りに、安全保障について二国間および多国間の対話を実施することとしている。
このようにみてくると、北朝鮮核問題の解決と北東アジアの安全保障のシナリオはすでに出来上がっているとも考えられる。
北朝鮮は、エネルギー危機をはじめ、食糧難、飢餓難民の続出などから経済的に破綻に瀕し、政治的にも金正日体制は重大な危機に見舞われている。危険な瀬戸際外交に訴えて、国際社会の孤児になることなく、むしろ国際社会への義務を履行することこそが、北朝鮮にとって最大の利益であることを金正日総書記は知るべきである。(さいとう・しろう)

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